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東京高等裁判所 昭和52年(く)165号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、弁護人高木陸記の提出した抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。

所論にかんがみ、本件事件記録を調査すると、原裁判所は、本件詐欺の事実につき昭和五二年二月一八日以降勾留中の被告人に対し、同年三月二三日保証金額を一二〇万円として保釈許可決定をし、被告人は同日釈放されたが、判決宣告期日として指定された第四回公判期日である同年七月八日の公判期日に出頭せず、変更指定された第五回公判期日である同月一一日の公判期日にも出頭せず、同日検察官から被告人が同月九日以降制限住居から姿を消し所在不明になつた旨の疎明があつたので、原裁判所は職権により、被告人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとして保釈許可決定を取り消したところ、被告人はさらに変更指定された第六回公判期日である同月一五日の公判期日にも出頭しなかつたため、同月一八日刑事訴訟法九六条一項二号、二項を適用して前記保証金一二〇万円全部を没取する旨の決定をしたことが認められる。

所論は、刑訴法九六条二項によれば、保証金の没取は保釈取消と同時にしなければならないことが明らかであるのに、保釈取消問定後、これと別の機会に保証金の没取をした原決定は違法であると主張する。しかし刑訴法九六条二項は、保釈の取消と保証金の没取とを関連づけ、したがつて両者の判断の対象となる事由も同一範囲内であるべきことを示しているとしても、進んで両者が同時になされなければならないと規定しているものと断定すべきではなく、むしろ右の点につき明文の規定がないことに加え、実務上、被告人の不出頭、逃亡等の所定の保釈条件の違反について保証金納付者の帰責事由の有無を調査するため事実調べをするのが相当と認められる場合等、保証金の没取を保釈の取消と別の機会に行なう必要性の高い事案のあることを考慮し、また刑訴規則九一条一項二号により、没取されなかつた保証金は被告人が収監されるまでは還付されないことを併せ考えると、保釈中の被告人に対し、保釈取消決定後、被告人が収監されるまで、右取消決定前の事由に基づき、別に保証金の没取決定を行なうことができるものと解するのが相当であるところ、前示のように原決定は、被告人が連続して二回、公判期日に出頭しなかつたため、検察官の疎明により、まず、被告人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとして保釈を取り消したが、次回公判期日にもさらに被告人が不出頭であつたため 被告人の保釈を取り消したのに伴うものとして前同資料に基づき保証金全部を没取したものであるから、原決定には所論のような訴訟手続上の違法はなく、その判断も相当であり、論旨は理由がない。

よつて、刑訴法四二六条一項に従い本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(小松正富 千葉和郎 鈴木勝利)

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